住宅ローンの繰り上げ返済は、繰り上げ返済をする時期によって損をしてしまうケースがあります。
繰り上げ返済により支払金利が削減されますが、一方で住宅ローン減税での還付金が減少してしまうためです。繰り上げ返済の時期によっては支払金利の削減額よりも還付金の減少額のほうが大きくなってしまうことがあるのです。
繰り上げ返済をするかどうか悩む(どっちが得だかわからない)という場合は次の3つのことをチェックすれば大丈夫です。
繰上返済で損をしないためにチェックすべき3つのこと
1.住宅ローン控除限度額はいくらか
住宅ローン減税額は「住宅ローン年末残高(12月末)×1%」で計算します。ただし、その計算式のまま控除されるわけではなく、最大でも住宅ローン控除限度額までしか控除されません。
住宅ローン控除限度額は、建築年や住宅ローン経過年数によって異なります。ご自分の条件を確認してみましょう。
国税庁 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)
例えばその年の住宅ローン控除限度額が20万円だった場合、仮に年末の住宅ローン残高が3000万円だったとしても、控除を受けられる金額は最大20万円です。
ですから、住宅ローン残高が【控除限度額÷1%】以上ある場合は、繰り上げ返済をしても住宅ローン減税額には影響せず、繰り上げ返済しても損になりません。
例えばその年の住宅ローン控除限度額が20万円だった場合、20万円÷1%=2000万円以上の住宅ローン残高がある場合は、繰り上げ返済しても損にはなりません。
2.所得税や住民税が住宅ローン控除限度額を超えているか
住宅ローン控除で還付されるのは、あくまで自分自身で納めた所得税や住民税(※)からです。国からお金をもらえるわけではありません。
ですから、自分が支払った所得税と住民税の納付額の合計金額が住宅ローン控除限度額に満たない場合は、繰り上げ返済しても損になりません。
※平成21年度税制改正で、所得税から控除しきれなかった場合、136,500円を限度として住民税からも控除できるようになりました。
3.借入金利は何%か
住宅ローン残高が(住宅ローン控除限度額÷1%)よりも少なく、かつ(所得税+住民税の合計額)が住宅ローン控除限度額を超えている場合は、詳細な計算が必要になります。
例えば現時点の住宅ローン残高が1500万円だったとします。この時、住宅ローン減税で還付される予定金額は1500万円×1% = 15万円 です。
仮に100万円を繰り上げ返済をすると住宅ローン残高は1400万円となり、還付される金額は14万円になります。つまり100万円を繰上げ返済することにより、還付予定額が1万円減少します。
繰り上げ返済をしたほうがよいのどうかの判断は、「削減される支払金利」と「還付金減少額」を比べて判断することになります。
上記の例で言えば、繰り上げ返済することによって支払金利が1万円以上削減されるのなら繰り上げ返済をしたほうが得です。削減される支払い金利が1万円未満であるのなら繰り上げ返済をしないほうが得です。
具体的な事例をみてみましょう。住宅ローン金利が2%で100万円の繰り上げ返済をする場合の事例です。
金利2%の状況下で100万円を繰上げ返済した場合、削減される支払金利の月額は「100万円×2%÷12ヶ月= 1,667円」です。月額でおよそ1,667円、年間で20,000円です。
繰り上げ返済日 | 12月末までの月数 | 12月末までの支払金利削減額 |
12月1日 | 1 | 1,667円×1ヶ月=1,667円 |
11月1日 | 2 | 1,667円×2ヶ月=3,334円 |
10月1日 | 3 | 1,667円×3ヶ月=5,001円 |
9月1日 | 4 | 1,667円×4ヶ月=6,668円 |
8月1日 | 5 | 1,667円×5ヶ月=8,335円 |
7月1日 | 6 | 1,667円×6ヶ月=10,002円 |
6月1日 | 7 | 1,667円×7ヶ月=11,669円 |
5月1日 | 8 | 1,667円×8ヶ月=13,336円 |
4月1日 | 9 | 1,667円×9ヶ月=15,003円 |
3月1日 | 10 | 1,667円×10ヶ月=16,670円 |
2月1日 | 11 | 1,667円×11ヶ月=18,337円 |
1月1日 | 12 | 1,667円×12ヶ月=20,004円 |
一方で100万円を繰上げ返済することにより住宅ローン控除により還付金は10,000円減少します。
上記の事例の場合、12月末までの月数が6ヶ月(7月1日返済)で繰り上げ返済による支払金利削減効果と還付金減少額が同じくらいになります。
6ヶ月よりも短いと支払金利削減効果よりも還付金の減少額が大きく繰上げ返済は不利になります。6ヶ月よりも長いと還付金の減少額よりも支払金利削減効果が大きくなり有利になります。
繰り上げ返済をするには、タイミングが重要ということになります。
まとめ
- 住宅ローン残高が多い場合(住宅ローン残高 > 住宅ローン控除限度額÷1%)は繰り上げ返済しても損にならない。
- 納めている税金が少ない場合(所得税+住民税 < 住宅ローン控除限度額)は繰り上げ返済しても損にならない。
- 住宅ローン残高が(住宅ローン控除限度額÷1%)よりも少なく、かつ(所得税+住民税の合計額)が住宅ローン控除限度額を超えている場合は、「削減される支払金利」と「還付金減少額」を比べて判断する。
おまけ
上記では金利が2%のケースで説明しましたが、金利が2%ではない場合はどのように計算すればよいでしょうか?
次のような計算式が成立すれば繰り上げ返済が有利です。
支払金利÷(繰上返済日から12月末までの日数÷365日)>1%
支払金利1.35%の事例で考えてみます。
年末までの残月数8ヶ月(5月1日)の時に繰り上げ返済すると「1.35÷(8÷12)= 0.9% < 1%」となり、繰り上げ返済は損とわかります。
年末までの残月数9ヶ月(4月1日)の時に繰り上げ返済すると1.35÷(9÷12)= 1.0125% > 1%」となり、繰り上げ返済しても損にならないとわかります。